情報法制学会は、2016年12月の創立設立から満8年を超え、姉妹団体である情報法制研究所と2人3脚で走ってきました。報告者、執筆者ほか関係各位のおかげで、研究大会は年1回開催、学会の紀要、情報法制研究は16号を刊行し、設立当初からの年2号刊行のペースを守れています。
この間の情報法制に関わるキーワードは多岐に亘ります。情報法制研究巻末の「情報法制をめぐる動き」をあらためて眺めてみると、ありとあらゆる種類の法と制度に情報の関わりがあることを思い知らされます。
もちろん国内の課題だけではありません。経済的側面を含む安全保障、Covid-19などの疫病、関税等による貿易、移民など国際的な問題においても情報への接触、記録・保存、処理、利用、流通・漏えいについてグローバルにカオスな状態にあるといっても言い過ぎとは言えないでしょう。そしてこのような状況で情報法制が無力であってはならないでしょう。
たとえばAIに代表されるように、情報の正の価値が活用されることによる個人的あるいは社会的な便益の向上をサポートすることは、情報法制に期待された役割の重要な側面です。同時に、人権、法の支配、民主主義が揺らぐカオスの中で、たとえばAIを構成する情報や情報システムのライフタイムにおけるガバナンスをどのように効かせ、情報の負の力を抑制することにより市民社会の基盤と構成員の基本権を守っていくのか「情報,メディア等に関する法, 技術及びビジネスの観点からの学術的,実務的な研究」(規約第1条)の促進がこれまで以上に要請されていることに間違いありません。
そのためには、これまで以上に学術的、実務的な研究における学際的、国際的なアプローチを強化する必要があります。本学会にこれまで集ってきた英知がさらに研ぎ澄まされ、新たな英知もその輪に入り、相互にぶつけ合いさらなる高見を目指せる、そしてその状況をきちんと伝えて、これまで縁が少なかった分野の実務家・研究家との対話の機会も含め専門の垣根と国境が越えられていく、そんな活動を積み重ねていきたいと考えます。
2025(令和7)年1月
代表 丸橋 透(明治大学 教授)
「情報法」という言葉は 1980 年代から散発的に使われてきたが,現在のインターネット社会とつながる形で用いられるようになったのは 1990 年代半ば以降である。情報法という語をタイトルに含んだ概説書も出版されているが, これまでは総じて,情報法の内包や外縁の定義の試みは乏しく,「情報に関連する法」を寄せ集めたものという印象が強い。
実際,近年では独自の法領域としての情報法の成立可能性について論じる試みも見られるようになったとはいえ,実際には情報法の遠心性は強いものがあり,また,情報法のカバーすべき範囲は ますます広く深くなっている。また,情報の流通や保護といった社会的要請は,法的規律だけではなくテクノロジーによっても対応がなされること, ルールによる規律でも法的な規律に加え,行政や,各種のレベルでの民間によるルール策定(共同規制,自主規制)によってもなされていることから, 広い意味での法源も極めて分散している。それに関連して,これらの法源ごとにそれに関わり,あるいはそれを議論するアクターも異なる場合があることもあって,ある特定の事柄を規律するルー ルの総体やそれに関する議論状況が見通しにくい状況になっているように思われる。
こうした状況においては,情報法の遠心性を緩和し,情報法の各個別領域で蓄積された知の共有を図る試みが求められる。概念としての情報法の構築はこうした問題意識に基づくものであったが,それだけではもちろん不十分で,情報法各領域で活動するアクターが集うプラットフォームが必要不可欠である。今見たような状況からすれば,情報法を論じるために必要な知見は法律学だけではなく,経済学やテクノロジーをはじめ幅広いものがあり,こうした幅広い分野の専門家の参加が求められる。
このような問題意識のもと,この度発足した情報法制学会は,「情報,メディア等に関する法, 技術及びビジネスの観点からの学術的,実務的な 研究(…)を促進することを目的とする」(規約第1条)ものである。情報法に関わる学会はすでに複数存在するが,相対的には実務家が中心であった既存の学会に対して,研究者とのつながりを深めることをも目指している。それと同時に,姉妹団体である情報法制研究所との緊密な連携のもと,研究成果の社会への還元にも取り組んでいく。さらに,情報法の研究や実践に関わる若手研究者・ 実務家の育成をも重視している。
2017(平成29)年1月
初代代表 曽我部真裕(京都大学教授)
『情報法制研究』は,このような情報法制学会の機関誌として,情報法に関わる多様な観点からの研究論文を掲載するものである。年 2 回発行の本誌は,実績ある研究者の寄稿を掲載するほか, 査読を経た投稿論文も積極的に掲載することにより,若手研究者・実務家の研究発表の場を提供する。さらに,情報法に関する内外の動向を紹介する資料なども掲載して,情報の共有を図る。
こうした内容のほか,本誌の大きな特色の 1つは,法学系の学術雑誌としてはほとんど初めて,オンラインを中心とするということにもある。もちろん,紙版も発行はするが,紙版の発行と同時に,個々の論文がオンラインで一般無料公開され,研究成果が広く読まれることになる。学会に入会すれば無料で投稿が可能であることとあわせ,若手にとっては魅力的な発表媒体になることだろう。
このような特色を有する本誌であるが,当初の意図が達成できるかどうかはひとえに執筆者,投稿者,また,読者の支持を得られるかにかかっている。学会とあわせ,多くの研究者・実務家の支援を期待する次第である。
2017(平成29)年1月
初代編集委員長 宍戸常寿(東京大学教授)