役員挨拶

代表挨拶

 情報化社会の進展とともに、情報が有する力の価値と重要性を意識する機会が増え、その傾向は飛躍的・加速度的に進展を続けています。デジタル化された情報の利用が我々の社会生活において大きな比重を占めるだけでなく、情報をやり取りするネットワークは社会のインフラとして位置づけられるものとなっており依存度は高まるばかりです。人工知能の進化によって想定していなかった新たな法的課題も出現し、自律型ロボットの普及やサイバネティック・アバターなどの新興技術の実現が法の基本特性の見直しや社会の規範秩序に大きな変革をもたらすことが予想されます。

 このような変化を背景に、「情報法」は個々の「法」分野に限定した検討では対処できない課題について、伝統的な「法学」分野における検討に還元可能となるまでの一過的・派生的な学問分野としての存在意義を脱し、「情報」に係る法的諸課題の検討を収斂させることができる法学分野としての地位を築きつつあり、法学研究の昇華を体現する分野としても注目されています。

 個別の法分野における基礎理論や概念、解釈を踏まえつつ、既存の枠組みでは捉えられない事象や問題への応用、即時的対処が求められる場面においても展開が可能な研究を行うことへの期待も高く、新たな立法課題への取り組みや行政施策の検討への貢献、司法的救済の根拠の提示など社会的課題解決への汎用性が期待される研究課題も多い分野です。

 以上のような時代的要請や社会の期待に応えつつ、最先端の法学研究としての情報法制研究の促進を標榜する学会として、新たな課題に果敢に取り組むことができる未来志向の研究を目指す学術組織としての活動をさらに発展させたいと思います。


2021(令和3)年1月
代表 新保 史生(慶應義塾大学教授)


設立趣旨

「情報法」という言葉は 1980 年代から散発的に使われてきたが,現在のインターネット社会とつながる形で用いられるようになったのは 1990 年代半ば以降である。情報法という語をタイトルに含んだ概説書も出版されているが, これまでは総じて,情報法の内包や外縁の定義の試みは乏しく,「情報に関連する法」を寄せ集めたものという印象が強い。

実際,近年では独自の法領域としての情報法の成立可能性について論じる試みも見られるようになったとはいえ,実際には情報法の遠心性は強いものがあり,また,情報法のカバーすべき範囲は ますます広く深くなっている。また,情報の流通や保護といった社会的要請は,法的規律だけではなくテクノロジーによっても対応がなされること, ルールによる規律でも法的な規律に加え,行政や,各種のレベルでの民間によるルール策定(共同規制,自主規制)によってもなされていることから, 広い意味での法源も極めて分散している。それに関連して,これらの法源ごとにそれに関わり,あるいはそれを議論するアクターも異なる場合があることもあって,ある特定の事柄を規律するルー ルの総体やそれに関する議論状況が見通しにくい状況になっているように思われる。

こうした状況においては,情報法の遠心性を緩和し,情報法の各個別領域で蓄積された知の共有を図る試みが求められる。概念としての情報法の構築はこうした問題意識に基づくものであったが,それだけではもちろん不十分で,情報法各領域で活動するアクターが集うプラットフォームが必要不可欠である。今見たような状況からすれば,情報法を論じるために必要な知見は法律学だけではなく,経済学やテクノロジーをはじめ幅広いものがあり,こうした幅広い分野の専門家の参加が求められる。

このような問題意識のもと,この度発足した情報法制学会は,「情報,メディア等に関する法, 技術及びビジネスの観点からの学術的,実務的な 研究(…)を促進することを目的とする」(規約第1条)ものである。情報法に関わる学会はすでに複数存在するが,相対的には実務家が中心であった既存の学会に対して,研究者とのつながりを深めることをも目指している。それと同時に,姉妹団体である情報法制研究所との緊密な連携のもと,研究成果の社会への還元にも取り組んでいく。さらに,情報法の研究や実践に関わる若手研究者・ 実務家の育成をも重視している。


2017(平成29)年1月
初代代表 曽我部真裕(京都大学教授)


学会誌『情報法制研究』(有斐閣)発刊に寄せて

『情報法制研究』は,このような情報法制学会の機関誌として,情報法に関わる多様な観点からの研究論文を掲載するものである。年 2 回発行の本誌は,実績ある研究者の寄稿を掲載するほか, 査読を経た投稿論文も積極的に掲載することにより,若手研究者・実務家の研究発表の場を提供する。さらに,情報法に関する内外の動向を紹介する資料なども掲載して,情報の共有を図る。

こうした内容のほか,本誌の大きな特色の 1つは,法学系の学術雑誌としてはほとんど初めて,オンラインを中心とするということにもある。もちろん,紙版も発行はするが,紙版の発行と同時に,個々の論文がオンラインで一般無料公開され,研究成果が広く読まれることになる。学会に入会すれば無料で投稿が可能であることとあわせ,若手にとっては魅力的な発表媒体になることだろう。

このような特色を有する本誌であるが,当初の意図が達成できるかどうかはひとえに執筆者,投稿者,また,読者の支持を得られるかにかかっている。学会とあわせ,多くの研究者・実務家の支援を期待する次第である。


2017(平成29)年1月
初代編集委員長 宍戸常寿(東京大学教授)